雇用政策の矛盾
6月5日の未来投資会議で政府は2019年の成長戦略実行計画案を示しました。内容は多岐に渡るのですが、私はその中の2つの政策について矛盾があると感じました。その2つの政策とは「70歳までの雇用の努力義務化」と「中途採用の拡大などの労働市場の活性化」です。私はこの2つの政策は両立し得ないと考えています。
ここでは、個々の政策についての良し悪しや賛否には言及しないことにします。なぜなら、政策の良し悪しは目指すビジョンによって変わるものであり、かつ実行してみるまで結果がわからない要素があるからです。
政策に矛盾があると考える理由は企業の事情と労働者の事情に大別できます。
まずは企業の事情です。もし今後70歳までの雇用が義務になれば、企業としては一度雇用をしてしまえば業績が悪化しようが事業領域が変わろうが70歳まで給料を払い続けなければならなくなります。つまり採用のリスクが大きくなるのです。人を増やすことがリスクになれば企業は既存の人材の配置転換で対応せざるを得なくなります。さらに解雇ができない状況下で企業が取れる若返りの手段は中途採用の見送りと新卒採用の増加のみです。つまり中途採用などの労働市場の活性化にはマイナスになります。
労働者の側からも考えてみましょう。労働者は黙っていれば70歳までの雇用が約束されます。転職をしようと思っても企業は中途採用を絞り込んでいます。このような状況で転職を目指すひとがいるでしょうか?
このように企業と労働者それぞれにとって、高齢者雇用の促進は労働市場の活性化を妨げます。同様の理由から労働市場が活性化すれば高齢者雇用の義務化への反発が広がるでしょう。政府は目指すビジョンを明確にして高齢者の雇用義務化か労働市場の活性化のどちらの道を取るのかを明らかにするべきです。